2023年1月10日 【本】

なぜかお酒が自然とやめられそうになる本

 

紀元前4,000年頃にはメソポタミア地方のシュメール人によって飲まれていたとされているお酒。

その頃から今にいたるまで一定数、いやもしかして大多数の人間は、一度覚えてしまったら最後、「お酒をやめたい、でもやめられない~」と葛藤してきたのではないでしょうか。

 

かくいう私もお酒をやめたいのにやめられない一人でした。かれこれ30年近く飲んできて、その間節酒をしようとしたこと10回、断酒をしようと思ったことは100回くらいはあるんじゃないかと思います。

 

節酒はできませんでした。最初は少量にしているのですが、飲み続けていると量が増えてしまい逆戻り。

断酒が一番長く続いたのは一か月間。でも最後の方は我慢しているばかりだったので、なにかの拍子にあっけなくまたお酒を飲むようになった記憶。10年前くらい前なのでなぜまた飲み始めたかは覚えていないのですが。

 

お酒をやめようと思っていなかったのに

その私が「あれ、お酒そんなに飲みたくない。なんでだろ?このまま止められそう・・」と、お酒を飲み始めて約30年で初めて感じたのは、前年(2022)1228日のことでした。

もしかしてこれがきっかけ?と思ったのが、数日前から毎晩寝る前に読んでいた町田康さんの「しらふで生きる」という本です。

 

パンクロッカーで、文才もあって芥川賞も取っている、そしてどうやら断酒した話の本らしい、ということでずっと気になっていたのですが、「お酒をやめる」きっかけに読むのはなんか億劫だなあという気がしていました。

今まで沢山の「お酒の害」「アルコールとの付き合い方」的なブログや専門書を読んできて、プレッシャーに感じたり、読んだのに全然節酒できない経験をしてきたので、なにかに頼ってお酒をやめるというのは無理な話、と思っていました。

 

題名だけ知っていた本がたまたま目の前に現れた、というきっかけで読み始めたのですが、筆者に根強いファンがいるだけあって読みだしたら面白い。

 

お酒を飲みたい気持ちが正気で、お酒を止めたい気持ちが狂気」という斬新な発想で、狂気になぜか負けてご自身も「なぜお酒をやめなければならないんだ?」と葛藤する日々がかかれています。

 

町田さんがお酒を止めた日付が12月26日。まさにお酒の誘惑が多い季節。正月を乗り越え、旅行先でもお酒の誘惑から身を守り、としていくうちに断酒の日が数年に及んでいきます。

私もお酒を飲まなくなったのが12月28日とたまたま町田さんと2日違いなので、町田さんが書かれている内容とそっくり同じことをお正月経験しました。おいしそうな食事を目の前に飲まないでいられるか。。お正月くらいは飲んでもいいのではないか。。葛藤の中、無事お酒を飲まずにお正月が終わりました。

 

実家の家族は全員なにも言いませんでした。飲酒は個人の問題で、他人にとってはその人が飲もうが飲まないがたいしたことじゃないんだと思い、ちょっとむなしくなりました。が! 食事処で父が「焼酎」と注文している隣で口を開かず(開く気がしなかった)、家でも「なんかお酒ストックしてない?」と一度も聞かなかったのはすごい、とめっちゃ自分を自画自賛しました。

 

この本のどこに影響を受けたのか?

お酒を長年たくさん飲んできた筆者の中である時、「もうお酒はやめる」ともう一人の自分が言いだし、そいつが思ったより頑固で、物理上はいなくなってからも、「お酒は飲まない」という気持ちだけ置いていって消えてくれない。仕方なく筆者は理由もわからずお酒を飲まない日々を続けなくてはならない。。。

その滑稽さがおかしくもあり、なんとも言えない共感性もあり。

 

 まずよくある「断酒しましょう、節酒でもいいよ」という内容ではなく、読み物として楽しめたことがあります。

また私は読書が好きで、「なぜその本を読むのか?」と理由を問われれば、「おもしろそう」の他に、「新しい価値観・世界観を得られる期待が持てるから」だと答えます。

 

そういう意味でこの本はお酒について自分がまったく意識していなかった価値観、だけど実は自分の奥深くで眠っていたようである価値観と「初めまして」ととまどいながらも握手をした感覚です。

 

自分の意志でお酒をやめる、専門家や断酒会の仲間の力を借りてお酒をやめる、という考えしかなかった私は、「自分の意志ではないところで、お酒を飲まない」という発想が新鮮で、でも私の中のなにかが納得して受け入れたから、飲みたくなくなったのだと思います。

 

「自分の意志ではないもう一人の自分」とは?

 

筆者はその存在が何かについて言及していませんが、私自身はそれは「かけがえのない自分の体」の魂で、それが「もうお酒はいいよ」って初めて声に出してきて、私の精神も迷いながらも色々考えて、「うん、その方がいいね」って相槌を打った気がしています。

 

「お酒をやめたい」という気持ちはあったものの、「やめよう!」と思ってこの本を読んだわけじゃなかったので、専門書にはない、エンターテイメント性を含む文章の力を感じた一冊です。

家族の反応

お酒をやめて2週間。以前の私なら「まだたった2週間?またどうせ飲み始めるだろう」とあきらめ半分で思っているはず。でも、今までと違うのは、「やめるぞ!」と決意してやめていないこと。「あれ、なんか飲みたい気持ちが減ってる。このままいけそう」という気がずっとしているところです。

 

その証拠に。

先日家族が私がお酒をやめていることにまったく気が付いておらず、めずらしく(いつもは買ってきてくれることはない)チューハイを買ってきてくれました。しかも私が好きで飲んでいた強めの7%のレモン味。 夜ご飯の前にポンと缶を置かれた私は、飲むか飲まないか迷うほどもなく、「今やめているんだよね~」とつぶやいたら、家族はびっくり。ご飯中、缶は開かれることなく置かれ、その後どっかへ撤収されていきました。

 

今まで言わなかったけれど、やはり飲んでいないママの方がいいみたいですね。

 

自分にとっては「飲みたい気持ちは正気」でも、しらふの子どもたちや家族にとっては「飲んでるママは狂気」に見えていたのかもです。

お酒を飲む楽しさより良いことがある?

町田さんもお酒を止めたことによる効用について色々とかかれていますが、私個人に起こったことは・・・。

 

     仕事が早くなった。仕事に前向きになった。

現在、在宅勤務のフルタイムなのですが、「会社の規則に合わせてやりたくないことをやらなければならないなんて嫌だ、独立したい」という気持ちでいっぱいだった私。実際独立する方法を見つける前に、仕事が嫌すぎて安定したお給料も放り出す勢いだったのですが、断酒することで「限られた時間を有効につかう」意識が強まり、仕事の合間「起業する手段を探す」ため、仕事を手際よく済ませる意識が強まりました。その結果、仕事自体も前より嫌ではなくなり、生産性もあがり、「このまま働いてもいいかも」などと気持ちの変化も生まれました。(独立にはやはり憧れはありますが)

     嫌なことは変わらず起きるが、「嫌だ」と感じる気持ちが薄れた

人間関係とか仕事の内容だとか、お酒を飲んでいた時と同じことは続いているはずなのですが、以前はストレス100感じていたところを、今は30くらいだなあといった感じで受け止められています。

お酒を飲むことで発散していたよで実は負債をもっと背負っていたのだ、だから次の日がすごく辛く感じられていたのだという事実を再確認しています。

 

     食欲、睡眠の質、運動の時間が向上

お酒を飲んでいたころは酔うことが最優先だったので、ご飯を食べる前に飲んで食事がおろそかになり酔い方も良いものではありませんでした。

飲まなくなってからは食欲がわき、栄養をしっかり取れるので疲れもなく、また以前は眠れないことで悩んでいたのですが、今は朝起きれないくらいぐっすりです。

そして、仕事が終わったらまず「お酒」だったのが、「体を動かしてから食事」と運動へ時間を使うようになったのも体力向上につながっています。

 

     皮膚への変化

首まわりがかゆかったり痛かったりして赤みやぼつぼつが広がっていたのですが、お酒をやめて2週間でいつのまにかきれいさっぱり消えていました。半年前からあった赤みなので、冬の乾燥などではなく、お酒を止めたタイミングで消失すると「やっぱりやめていいことあるんだな」と感じます。

 

     顔のむくみが取れた

年齢を重ねると、顔半分が重力に負け、見た目にも表れると聞いていましたが、私もここ数年ずっと顔の下半分が重いことに不快感を感じていました。マッサージをしたり顔の運動をしても変わらずでしたが、お酒をやめて頬より下のもっさり感が減、不快感は激減。あの不快感をまた味わうのは嫌なので、やはりお酒はもう口にできない気がします。

 

   人と関わりたくなった

以前は夕方になったらお酒を飲むことに気を取られ、人と出かけるとか家事をするなど、他のことがおろそかだった気がします。

また飲酒の後に子どもを叱ると、お酒のせいでひどく怒ってしまったのかもと自己嫌悪になることも。今はしらふなので、叱るべきところを叱っていると自覚できますし、お酒の勢いでなにかしてしまったという余計な心配をしなくていいので、自分をより好きになれ、自分を好きになれると人になにかしてあげたくなる、といった良い循環が生まれている気がします。

自分は人付き合いが得意ではないと自覚していましたが、そんな固定観念さえ消えていきそうです。

まとめ

0か100。

楽しさを得ながらもお酒とはうまく付き合っていけない性分と自覚していた私が、存在を知っているけど長らく読みたい気持ちになれなかった本。ある日たまたま目の前に現れて「よっ!」と声をかけてきた本。

 

 お酒をやめたくてもやめたくなくても楽しめる一冊なので、一度読んでみてはいかがでしょうか?

 

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